名香水を読む|第4回:規範を裏切るエレガンス ― Guerlain「HABIT ROUGE」1965年

1965年に誕生した『HABIT ROUGE(アビ ルージュ)』は、メンズフレグランスの歴史において、大きな転換点となった香りです。
この作品は、男性用香水として初めてアンバー香調を本格的に取り入れた名香として語られてきました。伝統的な気品と、そこにひそむ官能性。その両方をひとつの香りの中に成立させたところに、『HABIT ROUGE』の革新があったのです。

1. 赤い乗馬服に託された、古典と反逆
「HABIT ROUGE」という名は、フランスの乗馬文化に由来する赤い乗馬服を意味します。
そこから思い浮かぶのは、規律、格式、洗練、そしてどこか古典的な男性像かもしれません。
けれども、この香りが印象的なのは、その端正な名前の内側に、甘く温かい余韻を秘めていることです。
ランブイエの森を馬で駆け抜ける騎手の姿から着想を得たこの作品には、ただ勇ましいだけではない、優雅さと人間味のある男性像が重ねられています。

2. Habit Rouge の革新
『HABIT ROUGE』は、ゲランを象徴する名香『SHALIMAR(シャリマー)』のアンバー・バニラを受け継ぎながら、それを男性向けの香りとして再構築した作品として知られています。アンバー・バニラにコロンを思わせるシトラスの明るい立ち上がりが加わることで、重厚さだけでは終わらない、軽やかで洗練された表情が生まれました。

『HABIT ROUGE』が画期的だったのは、こうしたアンバー・バニラの世界を、男性用香水の中で本格的に表現したことにあります。
シトラスやレザー、ウッディノートの骨格に、温かく甘美な余韻を重ねることで、それまでのメンズフレグランスにはあまり見られなかった奥行きを生み出しました。
そこにクローブやシナモンを思わせるスパイシーさ、パチュリやシダーウッドの落ち着き、そしてレザーの存在感が重なることで、香りにやわらかさと強さ、官能と節度といった矛盾を、エレガンスとして成立させたのです。

現在では、メンズ香水にバニラやスパイスが使われることも珍しくありません。
その流れを考えるとき、『HABIT ROUGE』は、男性用香水の表現を広げた重要な作品のひとつとして位置づけられるでしょう。

3. ゲランらしさを支える調香の品格
『HABIT ROUGE』の香りの背景にある品格を語るうえで欠かせないのが、ゲランのシグネチャーである「ゲルリナーデ(Guerlinade)」です。ゲラン公式では、これを1921年以来メゾンの香りを象徴する調和として位置づけ、バニラ、ベルガモット、トンカビーン、アイリス、ローズ、ジャスミンという6つの象徴的原料によって説明しています。『HABIT ROUGE』もまた、その系譜の中で、革新性と気品をあわせ持つ香りとして受け継がれてきました。

4. 時を超えて受け継がれる、もうひとつの男性像
誕生から長い年月を経た今もなお、『HABIT ROUGE』は、スポーツ、オードトワレ等、多様なバリエーションを持ちながら、ゲランを代表するクラシックとして語り継がれています。
それは、この香りが単なる流行ではなく、男性像そのものに新しい解釈を与えた作品だからです。

強さだけではなく、やわらかさもあること。
威厳だけではなく、甘さや揺らぎもまた魅力になり得ること。
『HABIT ROUGE』は、そんなもうひとつのエレガンスを静かに示しました。

伝統的な装いの名をまといながら、その内側には豊かな感情を秘めていること。その二面性こそが、この香りを今も特別な存在にしているのかもしれません。

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オリエンタルって何?
『Habit Rouge』を理解するうえで重要なのが、「オリエンタル」というファセット(香調)です。
これは、バニラ、アンバー、スパイス、パチョリなどを中心とした、温かみと深みのある香りの系統を指します。

オリエンタルの特徴
オリエンタルファセットの香りは、甘さ、ぬくもり、奥行きをあわせ持っています。
肌にのせることでやわらかく広がり、どこか官能的で印象深い余韻を残します。

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